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佐々木さん、精神の病、或いはとても遠回りな告白の巻 フラクラさんサイド 「恋愛は精神病の一種」 ハルヒが好んで撒き散らした言葉は、実は俺にとって、結構馴染みのある言葉だった。 無論、そう珍しいフレーズというわけじゃない。さだまさしだって「恋愛症候群」で歌ってたじゃないか。 え? 知らない? 「恋は一種のアレルギーと考えてよい♪」って歌なんだが。 そうか。まあ親父がよく聞いてた歌みたいだから、今の流行じゃないな。 それはともかく。 中学時代、佐々木もよく似たような事を言っていた。 塾の行き帰り、あるいは昼休み、佐々木は色々な知識を披露してくれた。 俺の知らないド偉い物理学者の学説や、中国の古典のヘンテコな逸話まで、どこから調べてきたのか知らんが、 あいつは好奇心の赴くまま、縦横に様々な事柄を頭に入れていた。 時々、受験に全く関係ないラテン語のなんとかいうどでかい本まで大学図書館から借りてきて、 一体何でそんなもんを、とさすがにあきれて突っ込んだことも一再ではない。 佐々木は俺の突っ込みに、 「ヨーロッパの言語の源流の一つだから、これを覚えればずいぶんと楽になるのだよ。 おまけに、存外卑近なことで役に立つかもしれないと思ってね。くっくっ」 などと答えて微笑んでいた。本当によくやるよ。 だがまあ、俺達も健全な中学生で、しかも受験を控えてストレスもたまっていたのだ。 時々はバカな話で息抜きすることだって、当然あった。 特にクラスの誰かが付き合ってるらしい、なんて事実が発覚したときには、 俺達も人並みにそんな話題でああでもないこうでもないと盛り上がったものである。 佐々木は他の女子が恋愛することには別に否定的でも肯定的でもなかったが、 こと自分の恋愛に関しては、 「キョン、恋愛とはね、一種の精神病に過ぎないのだよ。理性的に考えれば、 それ以外の解はないと思わないかね」 という恋愛感を示すことしかしなかった。 あいつも高校に入って、少しは丸くなっていればいいのだが。 外見は、あれで長髪にポニーテールにでもしたら、俺でも一発でまいるほどには整っているし、 変な知識はともかく、頭の回転はハルヒと同等以上なんだから、その気になれば引く手あまただろうに。 そういえば、今になって思い出すのもアレなのだが、 恋愛は精神病だ、というたびに、佐々木は変な呪文のようなものを唱えていた。 「オムニアウィンキトアモル」とか「アモーリスウルヌスイーデムサーナトクィーファキト」 とか言っていた。邪気眼か。 意味を問うと、必ず佐々木は微笑んで、 「『アモルマギステルエストオプティムス』だよ、自分で調べてみたまえ、キョン。くっくっ」 必ず同じセリフで煙に巻いてくれやがったものだ。 邪気眼さんサイド 「厨2病」という言葉を知っているだろうか。ネット上のジャーゴンというか、ある種のスラングだ。 中学生の頃というのは、背伸びをしたいさかりで、色々と身の丈にあわない大望を持ったり、 自分が特別だと思い込んで、周りからすれば、いや、自分でもちょっと冷静に見返せば、 「あイタたた……」とこめかみをおさえたくなる衝動に駆られる振る舞いをすることがある。 この言葉は、そういった振る舞いを冷笑的に指したもので、実際の年齢にかかわりなく、 そうした自我の肥大した行為全般に対して呼称されるものらしい。 僕にもそうした、思い返すと赤面を禁じえない行為の記憶が、特に中学時代の最後にいくつかある。 無論、今現在とて高校生であるからにはまだまだ未熟であり、成人してみれば、これからの行動も 気恥ずかしく思い返すだろうことは疑い得ないが、何しろあの中学最後の一年間、僕はずいぶんとはしゃいでいたように思う。 何といっても、僕がキョンと同じクラスになったのは、あの一年間だけだったのだから。 おかげで、かけがえのない経験ができたし、自分自身の殻に閉じこもりがちだった自分から、 ずいぶん成長できたことは間違いない。 ただその分、興奮しすぎて、今になって思い返すとずいぶんと気恥ずかしいこともあった。 特に、書棚の隅に置いてある、父譲りの岩波の「ギリシァ・ラテン引用語辞典」を見るたびに、 ちょっと独り身悶えせずにはおられない気分に駆られてしまう。 もし、タイムトラベルが実際に使えるなら、あの時の自分に 「そんなに背伸びして、もってまわった言い方をするのはやめなさい。 後で冷静になったら、きっと穴があったら入りたい気分になるわよ」 と忠告してあげたいくらいだ。 言った中身そのものは別に恥ずかしくない。僕の思いはあの時からゆるぎないもので、 それをキョンに告げたこと自体、後悔するものではない。 ただ、それを直接言えずに、精一杯背伸びしたあの頃の自分が、どうしようもなく気恥ずかしい。 面と向かって直接言っても、あのキョンのことだもの、まず間違いなくスルーか誤解されていただろうにね。 フラクラさんサイド いつものSOS団の活動中、オセロで盤面を一色に染めるのも飽きたので、本棚の本を眺めてみた。 「そういや流石にラテン語辞書とかはないのな」 「……ない」 佐々木も大学図書館から借りてたもんなあ。 などと中学時代を思い出して、ふと思いついた言葉があった。 長門なら、もしかして知ってるだろうか。 「なあ長門、つまんない雑談なんだが、「アモルマギステルなんとかかんとか」って、なんかことわざみたいな ヤツ、もしかして知らないか。何語かもわからない、昔聞いたことがある言葉なんだが」 ほんの軽い気持ちで聞いたのだが、長門はえらくマジメに考え込んでる。まあこれだけじゃいくら長門でもわからんよな」 「ああ、長門、別に知らなきゃいいんだ。俺の記憶も全然正確じゃな……」 「……Amor magister est optimus ラテン語の格言。意味は、『愛は最良の教師』」 おお、流石長門。 「じゃあ、オムニアウィンキなんとかってのと、アモーリスウルヌスイーデってのは分かるか?」 今度も長門はえらくマジメに考え込んでる。というより、あれは長門にしてみれば しかめ面に近いものではなかろうか。何故か吹雪の洋館で、長門の話をしたハルヒの顔を思い出した。 「……直球。想像以上に積極的。警戒レベルの上昇を強く推奨」 ん、流石にわからんか。 「……Omnia vincit Amor. 意味は『愛はすべてに打ち勝つ。』 Amoris vulnus idem sanat, qui facit.意味は 『自分に恋の傷を負わせた相手でないと、その傷は癒すことはで きない』 ではないかと推測される」 すごいぞ長門。 感動のあまり、思わず長門の頭を軽く撫でてしまった。怒られるかと思ったが、本人は結構嬉しそうだ。 ただ、何故かハルヒが物凄い目つきでこちらを睨んできて、逆に古泉は泣きそうな目でこっちを見る。 俺が何をしたというんだ。 佐々木さんサイド 「そういや佐々木、昔「恋愛は精神病だ」とか言ってたな」 「ああ、その持論は今も別に変わりはないがね」 学校からの帰りにキョンとばったり出会い、久しぶりに一緒に帰宅するという僥倖に恵まれた。 ここ最近、直接会うことは稀だったので、何気ない会話すら嬉しい。 「あれに続けて、なんか訳分からん呪文みたいなこと言ってただろ。あれ、ラテン語だったんだな。 最近ようやく意味が分かったぜ」 きゃあああああああああああああ。 な、何故今頃そんなものを。僕自身すら忘れたい過去だと言うのに。 そもそも、あの当時ラテン語を全く分からない君が、何故その文言を正確に覚えているのだねうあああ。 「そ、そうだったかな。僕もよく覚えてないんだが、何と言ったっけね」 「ちゃんと長門に聞いて、メモも取ってきたんだ。えーと」 取らないでえええええ。 「Omnia vincit Amor. が『愛はすべてに打ち勝つ。』 Amoris vulnus idem sanat, qui facit.が 『自分に恋の傷を負わせた相手でないと、その傷は癒すことはで きない』 で、Amor magister est optimus が、『愛は最良の教師』だったっけ」 「そ、そんな意味だったっけ。あははは」 「あれだろ、恋愛は精神病ってのにつなげて、 恋愛は、一度かかっちまうと誰も彼もそれに勝てなくて、癒えない傷を負ってのたうちまわる、って感じか。 でも、その苦い経験で人は成長するかもしれない、ってところか。 そんなに難しい言葉でお前の恋愛観示されてもわからないだろ、格好つけやがって」 「あは、あはははは。ち、ちょっとスノビズムにも程があったかね。あははははは」 その後、帰宅までとりとめのない会話を交わしたようだが、一切記憶がない。 キョン、「愛は全てに勝つ」を、「愛は全てに勝る」ではなく、「誰も愛には勝てない」と訳したのは正しい。 あれはあまり肯定的な言葉ではないらしいんだ。 なんでこういう時だけ正しく訳すのだね。 せめて、「精神病といって置きながら、愛は全て勝つなんて、お前本音は後者だろう」 とでも誤解してくれた方がまだマシだよ。 なんだい君のペシミスティック溢れる解釈は。 僕は、 「恋愛とは精神病なのかもしれないが、一度それがやってきてしまえば、誰も理性などでは止められない。 そして僕に取り付いた恋という病を治せるのは、それをなした張本人である、君だけだよ。 もし僕に恋愛感情を抱いてくれたなら、こんな遠回りな告白も、ラテン語の壁も、 恋する者の熱情で、きっと読み解いてくれますように」 と言いたかったのであってああなんて恥ずかしい台詞なんだ中学時代の僕よ……。 おまけに、やっぱりまったくさっぱり理解してもらえなかったじゃないか。 まあ想定の範囲内ではあるけれど。 ああもう、閉鎖空間にさらに穴を掘って独り閉じこもりたい。 とりあえず、「ギリシァ・ラテン引用語辞典」は、目に付かない本棚の奥にしまいこむことにしよう。 なんとなくおしまい
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トップページ > SS > 長編 > 70-483『バッテリー』 ※キョン子注意。キョンとは双子設定。 ※クロスオーバー注意 70-483『辞めたい理由』 70-493『抜擢』 70-509『未知との遭遇』 70-520『突っ走る男女』 71-16『怪物退治』 71-652『The game is on』 71-661『They call us problem children』 71-699『問題児と実力者』 番外編 70-551『~童貞達の会議録~』
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「佐々木!!」 そういって燃え盛る炎にキョンは駆け寄る。 炎の中から気を失った佐々木を抱えた男がポンジーを現した。 「ストップ…だ。君達はまぁ……良いコンビだが、そこまでだ。」 ふんふふふふ……と男は不敵な笑みを浮べた。 「キョンそして涼宮ハルヒ」 ポンジーはリモコンのようなものを取り出して続けた。 「このスイッチは軽いからねぇ? 打たれても切られてもスイッチを押すくらいの事はできる。 こいつのフラグの程はハルヒ君はよく知っているだろう?」 くっうう……ハルヒは歯軋りをして悔しそうにしている。 恐らくあのリモコンを押した瞬間恐ろしいほどのフラグが立つのだろう。 「ステージの廊下で見せたアレ。覚えてるか?」 キョンがハルヒに向かって話しかけた。 「ぁあ?」 ハルヒは何かを思い出したようだ。 「アレなら……指を動かす間も与えない。」 「距離が違うわ。それにその傷。」 「出来るさ。だからその後を頼む。」 炎をバックに男とキョンたちはにらみ合いを続けている。 「さて……じっとしていてもらうよ?」 ポンジーは絶対に拒否できない状況に佐々木が自分のものになることを確信しながら、 佐々木を抱えたまま動き始めた。 『ダアアアアアアァッッン!!!!!』 近くで小規模の爆発が起こった。 何かに炎が引火したらしい。 男は一瞬動きを止めて炎のほうを見た。 そして、それが一瞬の隙に繋がった。 「っく……」 キョンの目が鋭く細められた。 (奥義の極) それを極めたフラグクラッシャーの前には全てのフラグがゼロになる。 大きさも数も種類の差も。 ポンジーの前からキョンの姿が消える。 (フラグクラッシャーキョン流) 『スパン!!』 小気味良い音を立ててスイッチが―― (破壊) ――消えた。 そして次の瞬間、 破壊されたキョンの負けフラグの余波を食らってポンジーが血を吐きひざを突いた。 「佐々木さん!!」 ハルヒがいつの間にか佐々木を抱えていたキョンから佐々木を引き受ける。 「ふふふふふふ……ふ、ふふふ……ふ、ははははは……」 いつもどおりの様子に戻ったキョンは突然笑い出したポンジーに目を向けた。 ポンジーがキョンに向かって拳銃を向ける。 『ドガン!!!!!』 ――側頭部にハルヒの痛烈なけりを受けポンジーが向けていた拳銃は地面に落ちた。 「良いねぇ、、、実に良い。なぁ?楽しくないか?こういったやり取りは」 「終わりだ……」 「ふはぁはぁはぁ……ははははは……はははははは!!ははは……」 「目が覚めたら法の裁きが待っている――」 そういってキョンは少し悲しい目をしていた――
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佐々木さんの、願いは夢の中で、の巻 その2 僕の夢見る閉鎖空間の街中を、キョンと手をつないで歩く。 正確には、僕が夢見ているキョンなのだろうけど、それでも胸が弾む。 「だから初詣とかじゃなくて、この世界から脱出する方法をだな……」 まったく、本人みたいにつれないことばかり言うのだから困ったものだ。 そういえば、せっかく初詣に行くのだから、今着てるような普段着ではなく、 晴れ着にでも着替えてみたいものだね。 夢の中なんだから、そのあたり自由にならないものだろうか。 そう思った途端、僕の周りを茜色に色づいた霧のようなものが包み込んだ。 何だろう。どこか懐かしいような、安心するような、不思議な気持ちがする。 キョンに抱きしめられてたら、こんな気持ちになるものかな。 「うわ、佐々木、急にどうした!」 キョンが大声を出して飛びのく。大丈夫だよ。夢というのは、何でもありなのだから。 霧が夕映えを映したような強い輝きを一瞬放ち、次の瞬間には消えうせる。 見下ろせば、僕の服装は、先ほどの輝きを映したような鮮やかな茜色の振袖姿に変わっていた。 「もう本気で何でもありだな佐々木」 夢の中だもの、これくらいいいじゃないか。ついでにポニーテールにした方がよかったかい? よせやい、と横を向いたキョンの頬に、16%から58%ぐらいの割合で「本気とかいてマジ」な 成分が漂っていたのは、彼には黙っておいてあげよう。しかし我ながら芸が細かいものだね。 再びキョンの手をとって、セピア色の街を歩き出す。僕ら以外は誰もいない、 静けさに満ちた街並みを。 もし君が現れてくれなかったら、とても寂しい気持ちになるのではないかな、ここは。 「ここがお前の閉鎖空間だとして、一体何を映し出してるんだろうな」 さあ、何なのだろうね。 ただ今は、この風景すら、どこかしら明るく、暖かい色合いに見えるのは、主観の問題だろうかね。 「るる♪ らら♪」 晴れ着姿で口ずさむ。昔どこかで聞いた。歌詞も何もない、素朴な、でも美しい旋律。 僕は、誰かのように空を切り裂くように高く響く声ではないから、普段あまり歌など口ずさまない。 議論するには聞きやすくていい声と言われたことはあるけれど、歌むきとは僕自身思わない。それでも。 「珍しいな、お前がそんな風にはしゃぐのって」 いいじゃないか、ここは夢の世界で、見ているのは君だけなんだから。 人ひとりいない神社で初詣というのも違和感があるけれど、しきたり通りに 二人でお手水を用いてから参拝する。 実際に懐が痛むわけでもないので、キョンの分と会わせて漱石先生を 一枚お賽銭箱にいれて手を合わせた。 「佐々木、頼むから正直に言ってくれ。何をお願いしたんだ?」 キョンが、何故かどこかおびえたように、或いは覚悟を決めたようにたずねる。 そんな重大なことかね? まあ、家内安全、無病息災、それと君の平穏な一年をお祈りしておいたよ。 「堅実な願いで助かるよ。エキサイティングな世界とか願われたらどうしようかと思った。 しかし、俺の平穏な一年ってのは何なんだ?」 うん、まあ、これは利己的な願いかな。 君が非日常な事態に忙殺されず、平穏に日々を過ごして、それが結果的に 僕と一緒に平穏に居られる時間が増えることであれば、幸せだなあ、なんて……。 あんまり赤面しないでくれたまえ、キョン。こっちまで言っていて恥ずかしくなるじゃないか。 「なあ、佐々木。お前は自分の望む通りに世界を改変したい、なんて思ったことはないのか」 玉砂利をざくざくと踏みながら、キョンがさりげなく、いやそれを装って尋ねてくる。 本当に芸が細かいね。いやいや、こっちの話。 僕の思うままの世界か。確かにままならない事態に直面すれば、誰しもそう思うんじゃないかな。 でも、そうだね。ちょっと話は変わるのだけれど、僕の同級生に、アメリカからの帰国子女がいるんだ。 クラスの中では孤立しているのだけれど、僕とは時々話があってね。ああ、安心したまえ、彼女は女性だよ。 彼女はとかくアメリカ的な価値観の持ち主で、「沈黙は美徳」とか「空気を読む」とか言う行為が、とても苦手なんだ。 「自己主張ができない者はバカだとみなされる」という欧米風の価値観なので、色々と苦労しているみたいなんだ。 日本人にとって一番身近な外国であるアメリカすら、それだけ価値観が全く異なっていて、 しかもアメリカは移民大国という側面もあるから、もっと違う価値観の人々が寄り集まって、 本場はごった煮みたいになっているわけさ。 で、僕はそうした違う価値観に触れることは、とても楽しくて、「自分の世界が広がった」と思うんだ。 年末年始の特番で、海外のドキュメンタリーを大量にやっていてね、それでも同じような楽しみを享受できたよ。 今この瞬間にも、たとえばインドで、或いは中東で、或いはアフリカで、 僕達とは全く異なる価値観で、全く異なる環境を「当たり前」と思って生きている人々がいる。 インターネットどころか、文字すら知らずに、でもそれを困ったことだと思わずに日々を生きる人は、 どういう風に世界を見ているのだろうか。 厳格なムスリムの風習にがんじがらめにされて生きる女性は、けれどそれ以外の世界を知らなければ、 それこそが「当たり前の世界」と思って生きているんじゃないだろうか。 夕暮れに2キロ離れた山の稜線に動く牛の数を数えられるマサイの人々が見る風景は、どんなものなんだろうか。 ねえキョン、君はそういう風に考えたことはないかい? 僕の常識、僕の価値観では想像することもできないような「世界」が、今ここに、 地球の別の場所にたくさんたくさん存在するんだ。 それが60億以上も集まってできているのが、僕達の世界なんだって。 だからね、もし、全てが思い通りになるように、世界を改変できる力をもらえたのだとしても、 そこから生まれるのは、「僕の想像力や価値観」の枠内でしか推し量れない世界なんじゃないのかな。 それはとてもちっぽけで、大して面白くもない世界だという気がするよ。 まあ、僕は「知る」だけで満足するタイプだから、そう思えるのかもしれないね。 涼宮さんのように「実際に体験したい」と思うタイプの人とは、おのずから立場が違ってくるんじゃないかな。 そんなわけだから、安心したまえ、キョン。僕はむやみやたらな世界改変とやらに、別に興味はないから。 まったく、夢の中でまで、涼宮さんの話題に結びついてしまうとは、 やはり最大の障壁は彼女だと無意識の領域でも思ってしまっているんだろうか。 なにげに妹ちゃんが伏兵として手ごわいような気もするんだけど。 ああそれと、もし「君と二人、ずっと一緒の世界」というのが叶うのなら、 世界が四畳半一間だけしかなくとも、僕はずっと楽しく、満足した人生を送れると思うよ。 「なんかさっきと言ってることが違わないか、佐々木。あと今日はずっとテンションがおかしいぞお前」 重ね重ね失敬だね本当に。 それに、別におかしくはないよ。 君がいて、そして君と語り合うだけで、僕の価値観、僕の世界は、ずっと広がり続けていられると思うのだよ。 せっかくなので、おみくじをひいてみる。 誰もいないので、百円を置いて自分でひく。 「しかし意外っちゃ意外だな。佐々木はこういうの、非合理的だとか言って忌避するもんだとばかり思ってた」 まあ、普段は敬して遠ざく、というのがスタンスになっているのは認めるけど、 この夢では伝統に敬意を表さざるを得ないのだよ。なにせ君がここにいるという圧倒的な証拠があるわけで。 「何のこっちゃ」 おみくじの結果は中吉だった。 しかも中身は、「失せものに注意」だの「好機あり、ただし冷静に対処しないと後悔する恐れあり」 などと、あまりめでたくないものが多かった。起きたらもう一度ひきにゆこうかしらん。 神社の木はよく生育しているらしく、結ぼうと思っても、僕の背では届かない場所にしか枝がない。 本当だったら、まずありえないことだけど、まあ、夢に文句をつけても始まらない。 「ちょっと貸してみ」 ありがとう、キョン。って、そんなムリヤリ枝をしならせて引きずりおろさなくても。折れてしまうよ。 「けどおみくじって、本人が結んだ方がいいだろ。ほら、持ってるから結んじまえって」 枝にしっかりとおみくじを結びつける。もう大丈夫だよキョン。 「おう……ってうわ!」 無造作に手を離すものだから、勢いよくしなった枝が、キョンの目の近くを掠めた。大丈夫かい? 「ちょっとびっくりしたぜ、はは」 笑っている場合かね。眼球を傷つけたらことだよ。ほら、掠めた頬のところが切れてしまっている。 「や、別にこれくらい大したもんじゃないって」 そうもいかないよ。雑菌が入るとよくないし、新年早々縁起が悪いだろうに。 ……。 夢の中で絆創膏を願えば、もしかして叶ったのかもしれないけれど、僕のために怪我をしたのだから、 これくらいは、ね。 「うわちょっと佐々木、顔近い」 思い切ってキョンの頬に顔を寄せ、傷口を舌でそっと舐める。 ちょっとざらっとした感触。そして鉄錆の臭いが口腔に充ちる。 キョンの血の味。 「……さ、佐々木」 「……キョン」 何故だろう。中学3年の頃は決して超えることなどあるまいなと思っていた距離の壁が、 あの人たちとともに居る君を見たときからは、決して超えられまいとどこかで諦めていた距離の壁が、 夢のなかではいとも容易く打ち破れた。 キョンの深い、全てをゆがみなく静かに反射する瞳に、僕が映っている。 僕の瞳にも、君の姿が映っているのかな、それは、どんな風に映っているのだろうね。 そんなことを思いながら、僕達の距離は零に 「うわ!」 最近とみに調子がおかしくなっていた目覚ましが、よりによって1月の2日だというのに、朝の6時に僕を叩き起こした。 あ、あと5分、あと5分寝かせておいてくれれば! しかも、しかもだよ。通常どおり7時まで寝かせてくれれば、あの盛り上がった状態のまま、急いで家まで帰って15分。 あと45分あれば、夢の中とは言え保健体育の実践的なステップを どこまで駆け上がれたのかと考えるとああああああ。 母が、早く雑煮を食べに降りてきなさいと部屋をノックするまで、僕は枕を抱えてのた打ち回っていた。 まあ、いい初夢だったと思おう。 来年もぜひ写真を枕元に入れてみるとしよう。それと目覚まし時計は3が日が終わったら即買い換えようと心に誓った。 数日後、目覚ましを買いに行って、何故か財布の中身が千円ちょっと少ない気味であることに気がついた。 年末年始でバタバタしたときに余計に何か買った記憶はないんだが。はて。 などと首をかしげながら歩いていると、キョンと遭遇した。 やあキョン。 今年に入って初の顔合わせだね。お年賀状ありがとう。今年もよろしく頼むよ。 ? ねえキョン、なんでそっぽを向いて視線を合わせてくれないのかね? それと、やけに顔が赤いようだけど、風邪でもひいたかい。 ……。 ……あの、キョン。僕に見せないようにしてる側の方の頬に、絆創膏張っているのが見えたのだけれど。 ……ねえ。 ……あれは夢、なんだよ、ね? おしまい 27-426[佐々木さんの、願いは夢の中で、の巻 その1] 39-984「佐々木さんの、聖夜は夢の中で、の巻」
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今日はキョンがいない。今、橘さんと野球の話をしている。 「私の中学時代の先生が昔、実際経験したことらしいですけど ローズやカブレラがパリーグで王貞治のHR記録抜こうとした時に、連続で敬遠されて、結局記録更新がならなりませんでした、 その話をしていた時に、阪神ファンの方が、 『なに言っとるんや、そもそも”この前”バースが王の記録抜きかけたとき、江川がバース敬遠しよったやろ』 と普通に話をしていたのですよ、 (おいおい、それ10年以上前の話だぞ、この前はないだろこの前わ) と先生は猛烈にツッコミたかったらしいです。 笑っちゃいますよね。」 「そう。私は阪神ファンの人の気持ちがわかるような気がする。 時間の流れる速度は人によって違うのよ。 少年時代を昨日のように思い出したり、1週間前のことが何年も前のことのようだったり。」 「佐々木さん、元気を出して下さい。佐々木さんが悲しそうな顔をすると私まで悲しくなっちゃいます。」 僕はキョンと共に過ごした中学時代を昨日のことのように思い出す。 でも、キョンは中学時代のことをあまり覚えていないらしい。まるで前世の記憶のように。 卒業以来、僕たちの時の流れる速度は違っている。 いつか再び、キョンと同じ速度で暮らせる日が来るのだろうか。 (終わり)
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「佐々木さん、佐々木さん。聞いたぁー?」 「ん?何を?」 「キョンくんが、2年生のこに告白されてるんだってぇ!きゃー、佐々木さん、これは、浮気よぉ」 バキンッ!!!!! 「おや、ぶんちんが折れてしまったよ。」 「困ったなぁ…不吉なことが起きなければいいけど・・・・・」 「・・・・・・・・・・」 (・・・・・・折った。今、この人、ぶんちんを折っちゃった・・・・・) (普通、おれないよね。ぶんちん何か・・・・) (キョン!!不吉なことが起きるのは、あなたよ!!)
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アメリカ版佐々木 佐々木「すいまセーン……ボク、ウソついてまーした」 佐々木「ボクの国ではハンバーガーとバーベキューしか食べませーん」 佐々木「でも、日本のコトワザで一つだけ好きなのありマース 『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』 キョンも勿論お前らも……ボクの前ではホトトギスデース」 アメリカ留学した佐々木 佐々木(大学生)「キョン! 久しぶりっ! 僕のこと忘れてないだろうねっ!」 キョン(大学生)「よお佐々木かってうわ! いきなり抱きつくな。頬にキスするんじゃありません!」 佐々木「? アメリカではこのくらい、親愛さを示す挨拶だよキョン」 涼宮(大学生)「…………」 ●(大学生)「やれやれ(アメリカ人らしい、大仰に肩をすくめるジェスチュア)」
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△月×日 ハルヒを保育園に送った後、自転車を漕いでいたら意外な人物に声をかけられた。 「キョンくん、ひさしぶりね。」 その声は… 「朝倉?」 「お、ちゃんと私のこと覚えていてくれたか。感心ね。」 スーツ姿の元大学の同級生はいたずらっぽく笑った。 「まあな。」 「結婚生活はどう?娘さんがいるんだって?」 「うん。これがまた、誰似たのかじゃじゃ馬でねー。」 「でも、顔が笑っているわよ。親馬鹿してるんじゃない?」 「ばれたか。」 ちなみにこの朝倉というのは俺たちの大学時代のマドンナだ。 同級生の谷口なんかは顔よし性格よし成績よしのAA+ランクとか言って、ずいぶんと熱をあげていたものである。 「ところで、お前は今日は仕事か?」 「うん。」 スーツ姿の同級生を眺めると、時がたったという実感が沸いて来る。 「お前はたしか大手のコンビニに就職したんだっけ?」 「そう。でも、あらかじめ断っておくけどバイトじゃないわよ。」 「わかってるよ。今はどんな仕事をしてるんだ?」 「今は商品企画の仕事をしてる。」 「何の商品?」 「おでん。」 「おでん?」 そう聞き返した俺の口調が気に食わなかったのか、朝倉はすこしムキになった。 「ちょっと、その言い方は聞き捨てならないわね。 おでんといえば冬のコンビニの主力商品よ。 ただでさえ差別化の難しいコンビニチェーンの間で、もっとも個性をアピールできる重要な商品なんだから。 そもそも、おでんっていってもね、その奥は非常に深くて――」 と、こうして20分ばかり熱くおでんトークを聞かされた。 しかし、かつては大学のマドンナとして名を馳せた朝倉がおでんについて熱く語る女になってしまったか。 …28歳独身、この先の道は険しいな。 と、朝倉に会ったあと遅刻ぎりぎりで役所に着いた俺はいつもどおりの業務をいつもどおりにこなし昼休みを迎えた。 というわけで、飯でも食いに行くかな。 基本的に俺は昼飯は役所の近くの長門屋という食堂で食うことが多い。 「いらっしゃいませー。」 店に入った俺にそう明るく声をかけてきてくれたのは喜緑さんだ。 この人結構いい年だと思うのだが、どうやらまだバイトのようで 「ここでバイトしているのがばれたらまずいのでよそでは言わないでくださいね。」 と口止めされている。 その割には店にもいつもいるので、バイトしているのがばれたらまずいという先が非常に気になる。 その正体が非常に怪しい人だ。 「いらっしゃい。」 それから、数テンポ遅れてこの店のオーナーである長門有希が言葉を発した。 客商売をやるにはおよそ無愛想過ぎると思うのだが、なぜか人気があるようで、この店はそれなりに繁盛している。 ちなみに長門とは大学時代からの知り合いで、俺が市立図書館で試験勉強をして閉館まで寝てしまったときに(勉強していないという突っ込みはなしだ)本を読みながらにいすに座って根っこでも生えたように動かなかったのが長門である。 そこで、閉館時間だぜ、と声をかけてしまったのがきっかけで俺が図書カードを持っていないこいつの図書カードを代わりに作ってやるはめになった。 それ以降、図書館で会うたびにぽつぽつ話すようになり、就職してから近くの食堂にいったらこいつがいたというわけである。 「注文は?」 必要最小限しかしゃべらないが、べらべらしゃべられるよりも俺としては居心地がいいのでこの店によく来るのである。 「えーと、それじゃカレーで。」 「わかった。」 普通はもう少し愛想のある受け答えをすると思うのだが、まぁ長門らしくていい。 「出来た。」 えらい早いな。 まぁ、この早さが長門屋の魅力だ。 「ん?隣の人より量が多くないか?」 「サービス。常連さんの。」 そうか。 まぁ、こうやってサービスしてもらえるから俺も通っているんだけどな。 こんな長門であるが完全に無表情であるわけではない。 俺が結婚すると言った時は少しだけ悲しそうな顔をした。 ああ見えてもあいつも女の子だから、俺みたいなやつに結婚の先を越されたという事実にちょっと思うところがあったんだろうな、きっと。 飯を食って、いつもどおりの仕事をいつもどおりにこなすと5時ジャストに終業だ。 そこから俺は自転車を漕いでハルヒを迎えに幼稚園に行く。 仕事の後に朝比奈、じゃなくて娘の顔を見ると疲れもふっとぶってもんさ。 そう思いながら、保育園に付くと一人の保父が花に水をやっていた。 この男は藤原といってどうやらここの園長の息子かなんかで、いやいや保父をやらされているらしい。 そのせいか非常に態度が悪い。 憎ったらしい顔をしながらパンジー畑に水をやっている。 こんな悪態ばかりをつくような男の子供たちからの人気はというと― 「あ、パンジーだ。」 「パンジー、パンジー」 「おい、こら誰がパンジーだ!」 「パンジー!」「パンジぃー」「パンジーーー」「ポンジー」「パンジー」 「誰がパンジーだ!っていうか今誰かポンジーっていわなかったか?」 「ポンジー、ポンジー」 「ええい、人をまるで愛媛県民みたいに言うんじゃない!」 「えー、ちがうのー」 「当たり前だ!」 「じゃあ、みかんの産地といえば?」 「愛媛。」 「やっぱ愛媛だー!」 「違うって言っているだろ!」 「日本の温泉といえば?」 「そりゃ夏目漱石の坊ちゃんの舞台になった松山の道後温泉に決まっているではないか。」「やっぱ愛媛だー」 「だから違うって!」 「甲子園の常連といえば?」 「もちろんそれは愛媛県はタオルの町、今治西高校に決まっているだろうが!」 「やっぱ愛媛だー」 「だから違うといっているだろうが。これだから子供は…」 どうやらポンジー先生は大人気のようだ。 ハルヒを自転車に乗せて帰ってくると、家の前に見覚えのあるワゴン車が止まっている。 ということはあいつが家に来ているのか。 「ただいま。」 「おかえりー。」 やはり思ったとおりヨメのほうが先に帰っていた。 そして、 「あら、おかえりなさい。」 「ただいま。っていうかお前来ていたんだな。」 「あれ、迷惑でした?」 そううそぶいてわざとらしく微笑んでみせるこの女の名前は橘京子。 うちのヨメさんの職場の後輩だ。 とはいっても、学部卒で就職したヨメさんと違って、院卒で就職しているため後輩とはいえ1個年上である。 それでも、うちのヨメさんが仕事の出来る女だったためおとなしく後輩としてなついているというわけである。 「相変わらずお早い仕事のお帰りですねー。ちゃんと働いているのかな?」 むっとする俺の心を察したのか 「橘さん。」 ヨメさんから制止のお言葉が入った。 「はい、すみませーん。」 ぜんぜん反省してるように聞こえんぞこら。 そして、普段は物怖じしないくせに人見知りのハルヒは俺の脚にしがみついたまま黙っている。 「ほら、ハルヒも橘さんにご挨拶。」 「…こんにちわ。」 ヨメさんに捉されてやっと言葉を出した。 「あぁ、そうだ、キョン。ちょっと夕飯の材料に買い物をし忘れたものがあるんだ。悪いけど、買いに行ってくれないかな?」 ああ、いいよ。 どうせ橘にとっては俺はお邪魔虫だからな。 この橘はヨメになつくのはいいが、半分宗教の領域に達してるんじゃないかと思うほど心酔している面があって、俺のことは結構疎ましく思っているらしい。 というか、結婚するといったときなんでこんなボンクラと、と言われたしな。 「じゃあ、買い物行くぞハルヒ。」 ハルヒは黙って付いてきた。 「いってらっしゃい。」 やれやれ。 「ほんと佐々木さんはなんであんなのと結婚したんですか?佐々木さんくらいの人ならもっといい人と結婚できただろうに。」 「橘さん、私は結婚して名前は変わったから佐々木じゃないよ。」 「いーえ、私にとっては佐々木さんは佐々木さんです。っていうか、私の質問をはぐらかさないでください。」 「わかったよ。じゃあ、聞くけど私にふさわしそうな人ってどんなひと?」 「うーん、仕事も出来て、かっこよくて、お金持ちで…例えばうちの会社の古泉さんとか。」 「くっくっ、キミのライバルグループのエースをおすすめするのかい?」 「それは、それ。これはこれですぅ。」 「古泉くんとは確かに話はあうだろうし、キョンよりもお金は稼ぐだろうね。」 「じゃあ、なんであんな人と結婚したんですか?」 「あんな人とずっと一緒にいたいと思ったからだよ。」 そう言って俺のヨメは笑ったらしい。 その場にいなかったのが残念だ。 『キョンと佐々木とハルヒの生活 3日目』 15-132「キョンと佐々木とハルヒの生活 1日目」 15-225「キョンと佐々木とハルヒの生活 2日目」 15-242「キョンと佐々木とハルヒの生活 3日目」 15-519「キョンと佐々木とハルヒの生活 4日目」 16-406「キョンと佐々木とハルヒの生活 5日目」 16-567「キョンと佐々木とハルヒの生活 6日目」 17-681「キョンと佐々木とハルヒの生活 7日目」
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キミを見ていると胸が痛い。 「やぁ、キョン。」 「よう、佐々木。……ああ、嫌だ嫌だ……また近くにテストかよ。」 「どうしようもない人だねぇ、全く。」 守ってあげなくちゃ、壊れちゃうから。 「ほら、教科書を開けたまえ。僕が解説してやろう。」 「うう……」 キミは知らないけれど 「ここは、ここの用法を使うんだよ。」 「……ほう。」 キミは僕の『薬』さ。 「成る程。応用的にはこうなるのか?……ん?違ったか?佐々木。」 「……いや、そうなるよ。すまない、盲点でね。そこは考えつかなかった。」 呑み込んでしまえるのは、僕だけだろう。 「……ん?メール?ハルヒかよ。」 あの子かわいそうで胸が痛い。 いたずらに美しさ安売りしてる。 「…………」 もっと早くにキミと僕が 「……はぁ?!夕方から全員集合だと?!」 出会えていたなら、こんな風にね 「……テスト前に何を考えとるんだ、あいつは……」 傷つけやしないだろう。泣かせたりしないだろう。 「……すまんな。佐々木。」 「いや、構わないよ。……僕も部外者として着いていこうか?」 キミを見ていると胸が痛い。 「やめてくれ。ハルヒの機嫌が悪くなると、古泉が大変な事になる。」 崩れ落ちていくキミは、とても素敵に見える。 「ああ、全く大変だね。」 ここで見ているから、さぁ笑ってごらん。 「ここまでハルヒに気を回す事自体が、おかしな話だがな。」 「くっくっ。」 セラピー。これはセラピー。ただのセラピー。 僕の上で君が君じゃなくなる。 「んっ……」 どうしようもなく悲しくて淋しい戯れ。 「……何やってんだろうな、俺ら。」 これは悪夢なのさ。 「全く……。」 これはあなたなのさ。 「……やれやれだね、キョン。」 何の意味などないのさ。 キミが汚されちゃうから。 「まだ時間はあるが……」 キミが望む全てを 「さあ、何して欲しい?」 「もう一度するか、佐々木。」 「くっくっ。このエロキョンが。」 誰もいない所で。 「あっ……」 このままキミと限界破裂。 セラピー。これはセラピー。僕のセラピー。 「身体を合わせても、いまだと淋しいだけだな。」 「このままいっちゃおうよ……ね、キョン……」 「……さて、行かないといけねぇな。」 ずっと僕だけ見ててくれりゃ、きっとキミにも良かったのにね。 「行ってらっしゃい。」 全て与えたはずさ、キミに。 「僕はキミを思って、涙に枕を濡らすとするよ。」 「あいつらとは、こういう関係にない。」 全てあなたのためさ。 「……やっぱり、テスト前だしな。断わりのメールを送るか。」 いとしの僕の『不安定』。 「それはよくない。約束は守るべきさ。」 もう離さない。 「また、テスト明けにでも会おう。」 「……そうするか。」 キミを、キミをこのまま閉じ込めて永遠に。 「じゃあ、また今度。」 「ああ。」 キミの傍にいて、ずっとずっと話しかけるよ。 セラピー。これはセラピー。僕のセラピー。 「さて、テストも終わったね。出来はどうだい?」 「おかげさまで、だな。」 誰にも会わずに 「今日は何をして過ごす?」 ここで過ごそう。 「そうだな。お礼に買い物にでも行くか?」 ガラス細工の時を 「そうだね。では何か小物が良いな。こないだ、ガラス細工の栗鼠を見つけてね。」 「値段次第だ。」 「くっくっ。」 二人過ごそう。 「帰ってから、二人で過ごすかい?」 「お泊まりはヤバいだろうが。監視の目もある。」 過ぎた夜の数を 「最も、こうした気遣い自体がバカらしいんだが。」 「全くだね。」 数えずに過ごそう。 「それだって、俺はハルヒ達を守らないといけないんだがな。」 「だからこそキミ自身が無防備なんだよ。」 「そこはお前が守ってくれているんだろ?」 「言っていたまえ。」 キミと集中治療を、続けていこう。 そして。 キミは僕の『クスリ』になる。 END
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「キョン、今日は僕の気分転換に付き合ってくれてありがとう」 「テストの終わった次の日ぐらいは思いっきり遊べ」 「ところで君はもうテストは終わったのかい?」 「一週間後だがまぁ一夜漬けすりゃ赤点にはならんだろ」 「まったく君って奴は…」 「でも誰かに教えてもらうのも悪くはないな」 え?それって僕と二人きりになりたいってこと? まさかキョンからそんなことを言い出すなんて… テスト勉強は…おまけでいいか 「橘は頭よさそうだよな…一応機関に入っているわけだし」 え?ちょ、中学時代に君はあんなに頭が言いと褒めてくれたのに 僕は眼中にないというのかい?というよりなぜ僕じゃなくて橘さんが… 「でも彼女は忙しいと思うよ。機関もそんなに暇じゃないだろうし」 「そっか…だよな。えーと暇な奴、暇な奴……」 キョン、ほら隣、テストも終わって暇な僕がここに 「あ、九曜とか暇そうだな。頭も良いだろうしちょうど良いな」 何でそうなるの!?君には僕の野ぼ…親切心に溢れた目が見えないとでも? ……さ、三度目の正直だ… 「でも彼女じゃ意思疎通が難しいと思うな。 やっぱ勉強なら気兼ねなく出来る人とやりたいよね」 「だよな!じゃあ藤原に頼むか」 「君はボケているのか、僕にケンカを売ってるのかどっちなんだい!?」 「ん?何が?」 ああそうか…僕は君にとって半径一メートル以内でも忘れられるような人間なわけだ 「………れた」 「どうした佐々木?」 「今日という今日は堪忍袋の緒が切れた!」 「えーと、とりあえず話し合お 「ちょっと電話するから黙っててくれないか?」 「……はい」 「あ、もしもし。キョンのお母様ですか?ええ…成績? 丁度そのことで話が…はい、キョンがテスト勉強のために 一週間私の家で泊り込みで勉強するとのことです 別に迷惑ではないので……それでは」 「佐々木、お前なんてことを……」 「キョン、これで気兼ねなくたっぷりと勉強が出来るね 早く僕の家に行こうじゃないか」 「ちょっと教科書とか取ってくる」 「国木田、今暇かい?もし暇ならキョンの家から 今度のテストで使う教科書を持ってきてくれないか?」 「プリントとか場所が分からないだろうしやっぱりいったん帰…」 「プリントはコピーして持ってく?気が利くね。とても助かるよ」 キョン、僕が君を逃がすわけがないだろう これから一週間君を赤点なんか無縁になるように(+α) 調教してやろうじゃないか。くっくっ 「はい、教科書とプリント」 「国木田!何でお前電話で断らなかった!」 「こんな面白いイベントを僕が見逃すわけないじゃないか!もったいない そうだ、君の母親から渡されたのだけれど一週間分の洋服だってさ」 「キョン、君の母親は随分気が利くね」 「佐々木さんさえ良ければもうずっとそこに置いてて欲しいとのこと」 「『あと数年後にはぜひ挨拶しに行くので待っててください』と伝えといて くれないか」 「おい、俺の意見は……」 「君は僕のようなナイスバディな女の子でも文句があるのかい?」 「ナイスバディ?ふ~んナイスバディねぇ…誰が?どう見ても俺の周りには 今のところ平らな奴しかいないが?」 「ぼ、僕はもう帰るとするかな」 「僕もそのほうがいいと思うね。これから玄関が少し汚れそうだ」 バタン 「さぁキョン辞世の句はあるかい?あっても聞く気はないけれど」 「すまn」 「言い訳は地獄で聞く」 「待t」 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァア!」 (凄いな…キョンは生きてるだろうか……) おまけ 「着膨れしてるだけで僕だって胸はあるんだからね」 「分かった分かった」 「……最初のテスト勉強は保健体育に決定!」